すこやかコラム 第18回
「ソーシャル・ジェットラグ」って何?
寝だめをやめて快眠を目指そう
蒸し暑く、寝苦しい夜が続いています。平日は仕事や家事で忙しく寝不足気味だから週末に寝だめをする、という方も多いのではないでしょうか。
しかし、寝だめをすると体内リズムが乱れて「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」になってしまいます。
ソーシャル・ジェットラグが健康に与える影響や、体内リズムを整え良質な睡眠を得るためのポイントをご紹介します。
寝不足による「睡眠負債」は健康に悪影響!
日本人の睡眠時間は世界的にも短く、多くの人が慢性的な睡眠不足の状態です。睡眠不足が続くと判断力や食欲低下、ホルモン分泌の異常など、健康にさまざまな影響が出てしまいます。自治医科大学の研究(*)では、健康な男性で睡眠時間が6時間未満の場合、7~8時間の場合と比べると死亡の危険度が約2.5倍になるという報告があります。
*Amagai et al., 2004 J Epidemiol. 14:124-8.
睡眠不足がまるで借金のように積み重なり、その結果として体調不良になってしまうことを「睡眠負債」と言います。
この睡眠負債をまとめて“返済”しようと、週末に「寝だめ」をする人も多くいます。しかし、それは大きな間違いです。なぜなら寝だめは体内リズムを狂わせ、「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」を引き起こしてしまうからです。
調査によると、休日に寝だめをしている人は、合計約40%。性別では大きな差は見られませんが、年代別では60代になると減少する傾向があるようです。
体内時計を狂わせる「ソーシャル・ジェットラグ」
時差のある地域へ海外旅行をすると、体内リズムが乱れて疲れや不眠、頭痛などの症状が現れます。これが「ジェットラグ(時差ボケ)」です。同様に、自分の体内時計が周囲の「社会的な時計」と合わず、仕事中に眠くなったり夜になっても寝つけないなど、まるで時差ボケのような状態になることを「ソーシャル・ジェットラグ」と言います。ソーシャル・ジェットラグは2006年にドイツのティル・ローネベルグ博士が提唱した概念で、気分の落ち込みや肥満、生活習慣病の原因になることが明らかになっています。
私たちの体には体内時計が備わっており、約24時間の周期を刻んでいます。体内時計は朝、明るい光を浴びることで、そのリズムを規則正しく刻むことができます。朝、光を浴びてから約14時間後に、睡眠ホルモンとも呼ばれるメラトニンが分泌され、眠りへの準備が始まります。朝寝坊をすると、光が浴びられず体内時計が乱れてしまうのです。
睡眠に問題のない男女16人(平均25.7歳)に、土曜日と日曜日の朝に「休日朝寝坊」をしてもらった場合と、平日と同じ時間に起きた場合とで、内分泌や疲労度を比較した研究があります(*)。週末に朝寝坊をすると、日曜日の夜はメラトニンの分泌開始時刻が遅くなり、なかなか寝つけなくなることがわかりました。さらに、翌週の眠気度と疲労度を比較した結果、「休日朝寝坊」の条件では、月曜日と火曜日の眠気や疲労度が強く、その状態は水曜日頃まで続くことが示されました。
健康のために週末にたっぷり寝て体調を回復させようとしても、それが結局は「ソーシャル・ジェットラグ」を引き起こし、私たちの身体を余計に疲れさせてしまうのです。
太陽の光と昼寝でソーシャル・ジェットラグのない睡眠を!
寝だめはかえってソーシャル・ジェットラグの原因となるため、睡眠不足による体調不良を改善することはできません。では慢性的な睡眠不足を解消するためには、どうすればよいのでしょうか。
もちろん毎日十分な睡眠を取ることがベストですが、それはなかなか難しい…。そんな方は、平日に20~30分ずつでも睡眠時間を増やすように心がけましょう。そして休日の朝は寝坊をせず、平日と同じ時間に起きて太陽の光を浴び、体内時計をリセットしてください。きちんと起きて朝食をとり、少し身体を動かしてから昼寝で睡眠を補うようにすることで、身体が一度目覚めて体内リズムが整います。
また、睡眠の「質」を高めることも大切です。良質な睡眠については、「健康の源は質のいい睡眠にあり!ぐっすり眠れる3つのテクニック」
もあわせてご覧ください。
十分な、質の良い睡眠は、心や体の健康に重要です。毎日規則正しく、ぐっすり眠って、日々の体調を整えましょう。
駒田 陽子(こまだ ようこ)
明治薬科大学リベラルアーツ准教授
早稲田大学 文学部 心理学専修 卒業。早稲田大学大学院 人間科学研究科 博士課程修了・人間科学博士。日本学術振興会特別研究員、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所特別研究員、東京医科大学 睡眠学講座 准教授 などを経て、2017年より現職。
目覚め方改革プロジェクトのメンバー。
早起きが得意な「朝型」の人や、夜更しをしがちな「夜型」の人もいますよね。国際的な学術雑誌「Nature Communications」によると、その人の努力や意識ではなく、遺伝子によるとのこと。私たちには1日のリズムを作る「体内時計」があり、そのリズムをコントロールする遺伝子によって、朝型か夜型かが決まります。
よく朝型のほうがよいようなイメージを持たれますが、必ずしもそうとは言えません。それぞれのリズムには個人差があり、朝が得意な人は朝早いスケジュール、夜のほうが楽な人は遅めのスケジュールで過ごすことが体にとって負担のない生活を送れます。
ここで、それぞれの特徴を見てみましょう。
早寝早起きが習慣化している人が多い朝型。目覚めも比較的すっきりしていて、余裕をもって1日をスタートすることができます。夜も遅くまでダラダラすることがなく、時間管理もしっかりしている特徴があります。そのぶん、急な用事で夜が遅くなることがとても苦手です。寝る時間が遅くなることで睡眠不足になり、翌日体調を崩してしまうこともあります。
「早寝」にこだわりがないため、時間の使い方が柔軟な夜型。仕事で遅くなることがあっても、それほど体の負担を感じることなく乗り切ってしまいます。その反面、極端な夜型の生活が続くと自律神経が乱れ、精神的にイライラしがちになってしまいます。また夜になると代謝が落ちますが、遅くに食事をとる傾向もあるため、太りやすくなることもあり、注意が必要です。
夜型の人が頑張って朝型の生活に変えても、ちょっとしたことで生活リズムが崩れれば、夜型に戻ってしまいます。朝型、夜型のどちらかがよい、というわけではなく、大切なことは自分の睡眠傾向を知ること。自分のリズムに合わせてきちんと睡眠時間を確保するようにしましょう。リラックスする時間をもったり、自分にあった寝具などの環境を整えて、睡眠の質を高めるようにしましょう。
2020年8月公開